東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)256号 判決
事実及び理由
一 請求の原因一ないし三は当事者間に争いがない。
二 取消事由(1)について
審決が摘示する第一引用例の記載内容のうち「弁上半部分(12)と弁下半部分(16)とにそれぞれ取付フランジ(108)、(104)を設けて両者をねじ(1001)によつて固定し」との点を除くその余の部分及び審決が摘示する本件考案と第一引用例記載の発明との対応関係は当事者間に争いがない(但し、第一引用例の争いある右摘示部分のうち弁下半部分(16)に取付フランジ(104)が設けられていることは当事者間に争いがない。)。原告は、第一引用例の弁上半部分(12)のうちの(108)の部分が取付フランジではないとして、右摘示部分が誤認であると主張するので、以下において検討する。
1 前記当事者間に争いのない事実及び成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)によれば、第一引用例にはフラツシユバルブの一変形例として、別紙図面(二)の第7、第8図に示されているように、弁下半部分(16)は外方に向かつた板状の突出部を形成する取付フランジ(104)を有するが、弁上半部分(12)にはかかる突出部はなく、(108)により示される部分はその上方外側の一隅を形成するにとどまり、右取付フランジ(104)と接してはおらず、右取付フランジ(104)の根元(内側)附近の上面とこれと面を接する弁上半部分(12)の下面をねじ(1001)で結合することにより、弁上半部分(12)と弁下半部分(16)を固定しているものが記載されていることが認められる。
右の記載によれば、第一引用例において、弁上半部分(12)のうち(108)と表示されている部分は弁下半部分(16)の取付フランジ(104)とはねじ(1001)によつて固定されているということはできないから、(108)の部分の呼称いかんにかかわらず、審決の前記摘示部分は誤認であるといわざるを得ない。
2 他方、成立に争いのない甲第二号証(本件考案の公報)によれば、本件考案の公報には、蓋体(4)と本体(3)がいずれも外側へ向う板状の突出部を形成する取付フランジ(16)を有し、右取付フランジ(16)により互に面を接していること、止めねじ(15)が右各取付フランジ(16)を結合させることにより、蓋体(4)と本体(3)を固定させていることが記載されていることが認められる。
3 本件考案の弁内腔を形成する蓋体(4)、本体(3)が第一引用例記載の発明の弁上半部分(12)、弁下半部分(16)に対応することは当事者間に争いがないから、前記1及び2に認定した弁内腔の上下部分の固定態様について両者を対比すると、前者にあつては蓋体(4)及び本体(3)がいずれも外側に向け形成された板状の突出部である取付フランジ(16)を有し、蓋体(4)と本体(3)は右取付フランジ(16)により面接触し、止めねじ(15)が右各取付フランジ(16)を結合することにより、右両者が固定されているのに対し、後者にあつては、板状の突出部は弁下半部分(16)にのみ取付フランジ(104)として形成され、右取付フランジ(104)と弁上半部分(12)自体の下面とが面接触をし、ねじ(1001)が右接触部分を結合することにより、弁上半部分(12)と弁下半部分(16)が固定されている点において相違するものということができる。
しかし、本件考案も第一引用例記載の発明も弁内腔の上(蓋体(4)、弁上半部分(12))下(本体(3)、弁下半部分(16))の部分の接触面をねじで結合し上下を固定する点においては共通しており、前記のように両者が固定態様を異にするからといつて、本件考案が第一引用例記載の発明に比し固定機能に関し格別の作用効果を奏するものと認めるに足りる証拠はない。
原告は、本件考案にあつては弁取付環(17)への植込ボルト(18)の着脱により弁装置全体のタンク底面からの取外し、組立て作業が簡易にかつ性能を損わずに実施できる旨主張するが、第一引用例においても、審決認定のとおり、弁下半部分(16)の取付フランジ(104)をタンク底面の弁取付用環状膨出部(本件考案の弁取付環)にねじ(96)(本件考案のナツト(19)、植込ボルト(18))により着脱自在に固定することによつて弁をタンク(10)の底面に着脱自在に取付けていることは原告の認めるところであるから、弁装置全体のタンク底部からの取外し、組立て作業において両者の間に格別の優劣があるものと認めることはできない。
4 以上のように審決は第一引用例の弁上半部分(12)の(108)の部分が弁下半部分(16)の取付フランジ(104)、ねじ(1001)とともに弁上半部分(12)と弁下半部分(16)の両者を固定するものと誤認し、その結果、本件考案との相違点を看過したものというほかないが、右相違点は単なる設計事項にすぎないものというべきであるから、右の誤認及び看過は結論に影響を及ぼすものではない。
三 取消事由(2)について
1 本件考案と第一引用例との相違点(イ)及び審決摘示の第二引用例の記載内容は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第四号証(第二引用例)によれば、原告主張のとおり、第二引用例記載の球形弁子(106)の左右に相当長い流体通路(46)が形成されていることが認められる。
2 原告は、本件考案では、固定された蓋体(4)と本体(3)の各フランジ(16)を、タンク底面の吐出口の周りに固定された弁取付環(17)に植込ボルト(18)により取付けるので、蓋体自体が弁取付環内に取付けられることとなり、したがつてタンク内にタマリがない旨主張する。しかし、審決認定のとおり、第一引用例においても、タンク(10)の底面の吐出口の周りには取付フランジ(104)と対応する弁取付用環状膨出部が予め形成されており、取付フランジ(104)を前記膨出部分にねじ(96)によつて着脱自在に固定することは当事者間に争いがないので、前掲甲第三号証に照らして考えれば、弁上半部分(本件考案の蓋体(4)に対応)が前記環状膨出部(本件考案の弁取付環(17)に対応)内に取付けられることとなり、したがつてタンク内にタマリがないことになる。
3 そして、前掲甲第二ないし第四号証によれば、第二引用例の弁上流側端部材(126)、その流入口内縁の周りに取付けた環状弁座(10)、弁下流側端部材(126)、その流出口内縁の周りに取付けた環状弁座、両弁座間に挟持された球形弁子(106)、右球形弁子を流通路に対し直角の軸線の周りに回転するステム(112)は、それぞれ第一引用例の弁上半部分(12)、スリーブ(44)、弁下半部分(16)、スリーブ(44)、プラグ(34)、操作ステム(30)に対応(本件考案についていえば、それぞれ蓋体(4)、環状弁座(10)、本体(3)、環状弁座(11)、球形弁子(6)、弁棒(10)に対応)していることが認められる。
4 そうであれば、第一引用例のプラグに代えて、第二引用例の球形弁子(106)を、同引用例の流体通路(46)を設けることなく、前記諸部材とともに転用し、タンクにタマリのない球形弁とすることに格別の困難性はないものというべきである。
したがつて、相違点(イ)に対する審決の判断に誤りはない。
四 取消事由(3)について
本件考案と第一引用例との相違点(ロ)は当事者間に争いがない。
前掲甲第三号証によれば、第一引用例の実施例として記載されたフラツシユ弁では弁下半部分(16)の流出口が左下方に湾曲していることが認められる。しかし、右の記載は、タンクの吐出物を左下方向へ排出させる必要がある場合の構成を示したものと解すべきであつて、前掲甲第三号証によるも、第一引用例における吐出物の排出方向を右のように限定すべき根拠を見出すことはできない。
そして、前掲甲第三号証によれば、第一引用例のフラツシユ弁はタンク底部に接する弁上半部分(12)の流入口とプラグ(34)の流通路(36)は垂直下方に接続するように構成されていることが認められるから、右流通路(36)と所望の方向の弁下半部分(16)の流出口を接続することは、必要に応じ当業者がきわめて容易になし得る設計事項であるということができる。特に、少ない抵抗下にあつて短時間内に吐出物を排出するためには、流出口を垂直下方に向けるのが好ましいことは明らかである。したがつて、相違点(2)につき格別の考案性がないとした審決の判断に誤りはない。
五 以上述べたところによれば、本件考案が第一及び第二引用例記載の発明からきわめて容易になしうるとした審決は結論において正当というべきである。
よつて、原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。
「タンク底部にとりつけられてタンク内の物質の吐出を開閉する球形弁において、弁本体と蓋体によつて形成した弁内腔に球形弁子を配置し、上記の蓋体の頂部にはタンク底部に通じる流入口を形成し、該本体の底部には該流入口の垂直下方に位置する流出口を形成し、該球形弁子には円筒形の流通路を形成し、該蓋体の流入口内縁の周りにとりつけた環状弁座と該本体の流出口の内縁の周りにとりつけた環状弁座の間に上記の球形弁子を緊密に挟持し、この球形弁子をその流通路に対して直角の軸線の周りに回転する装置を設けてこれにより弁子の流通路の開通または閉止を行なうようにし、且つ上記の弁本体と蓋体に取付けフランジを設けて両者を止ネジ等により固定し、タンク底面の吐出口の周りに該取付フランジと対応する弁取付環を溶接等によつて固定し、該取付フランジを該取付環に植込ボルト等によつて着脱自在に固定することによつて弁をタンク底面に着脱自在にとりつけたことを特徴とする球形弁。」(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
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